災害時の暴力とその防止
●災害時の暴力問題
大災害や戦争時に、女性や子どもが被害に遭う暴力が起こるリスクが高まることが国際的に知られており、海外ではさまざまな調査があります。DV、虐待、性暴力などです。
国内では、阪神・淡路大震災時に性暴力の被害が発生していたと問題提起する声がありましたが、被害届がないなど客観資料がないこともあり、デマ扱いされ、バッシングも起こりました。
2011年の東日本大震災では、避難所の安全確保を求める通知が内閣府男女共同参画局から被災地の各自治体に発信されましたが、混乱する被災地で通知が周知されることは難しく、十分な対策はなかなか取られませんでした。
そこで当センターの前身団体である東日本大震災女性支援ネットワークでは、大学教員およびDV問題に取り組んできた専門性の高い市民団体のメンバーにより、国内で初の、災害時の女性と子どもに対する暴力調査を実施しました。
そこから見えてきた暴力の実態についてかいつまんでご説明したうえで、対策の方向性についても触れます。
★『東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」に関する調査 報告書』
東日本大震災女性支援ネットワーク編・発行(2013年)
http://risetogetherjp.org/?p=4879 (PDFでダウンロード可)
●被害の概要
【DV問題(配偶者間暴力)】
調査のため寄せられた事例の約半数はDVでした。震災で新たにDVが始まったというケースもありましたが、震災前から夫の暴力を受けていたという女性が多いという結果でした。被災により、もともとあった暴力が悪化したり、暴力の形態が変わった例もあります。
背景として、家や車など家財を失くす、失業する、転職、転居、複数世帯同居から2人世帯になる・同居するようになる、など、喪失や環境の変化があげられます。
義援金や補償金、生活費を妻に渡さない、(他の女性に使う、自分の趣味や遊びに使うなども含む)経済的暴力も多くあることがわかりました。
また、震災がきっかけで、暴力夫と離婚にいたる例や、別れようと思っていたのによりが戻る結果となってしまい、金品を奪われるなどの被害にあう例もありました。
なお、DVをしていた夫が、避難所を回って妻を探すということも起こっていました。
【性暴力】
避難所やその他の場所で、性暴力が発生していたこともわかっています。
男性が隣に寝に来る、からだを触る、授乳の注視、のぞきなどで、一部ではありますが、強姦や強姦未遂も起こっていました。また、医療行為中に被災者からセクハラを受けるといった被害もあります。街灯のない市街地や、仮設住宅周囲での強制わいせつも起こっています。
さらに、対価型の性暴力が起こっていたこともわかっています。
震災・津波などで夫を亡くす、失業する、家財を失くすなどした弱い立場、支援を必要とする女性に対して、恩恵的行為(食料や生活物資を分け与える、住居の提供など)への対価として、性行為を要求するようなケースで、複数報告がありました。避難直後から警察・自衛隊の巡回が来る前までにこうしたケースが発生している場合もありました。
また、明確に性関係の強要でなくとも、女性からのサービスの強要(食事、身のまわりに居ることなど)も複数ありました。
【子どもへの暴力】
子どもへの暴力事例も報告されています。
顔見知りでない避難者からストレスのはけ口として、怒鳴られたり叩かれたりするケースに加えて、性的被害も起こっています。身体を触られる、キスをされる、下着を脱がされる(男児含む)、トイレについてこられる、のぞかれるといった暴力です。さらに、被害仮設住宅への帰途に街灯のない道で襲われたという、性暴力の被害例もあります。
●対策の方向性
以上から、災害時の暴力問題の特徴を整理すると以下のようなことが言えます。
まず、
・災害時の暴力問題への認知度の低さ
・社会の姿勢(避難所等での女性への配慮の無さ、防犯対策の不備)
・避難所や地域で声をくみ取ってもらえない女性たち(意思決定の場の男女不平等)
といった現状があります。
また、特に、夫を亡くす、失業、家財を失うなどで弱い立場に置かれ、支援を必要とする女性が、暴力問題に直面するリスクが高くなります。
もう一つ、被災者・支援者(行政・民間・ボランティアなど立場問わず)の、どちらもが被害者にも加害者にもなり得る、ということも視野に入れておく必要があります。
対策に求められることは、
・災害後早い段階からの暴力防止の啓発・相談支援の充実
・避難所の改善や組織内での啓発など支援関係者・コミュニティリーダー等への具体的な対応策についての情報共有(地域、行政、マスコミ、ボランティアセクター等をあらゆる人・組織が対象)
・災害時の支援・連携体制づくり(行政・警察・医療・女性支援センターなど)
です。
女性や子どもが一人で出歩かないようにするなど、自己責任で身を守れと言うだけでは、加害を防ぐことは難しいのです。
ただ、平常時からしっかり啓発し、支援体制が取られるようにしておかなければ、災害後の迅速な対応が難しくなります。暴力を許さない社会づくり、被害者が速やかに必要な支援を受けられる仕組みづくりが重要です。