公開研究会

「災害とジェンダー」に関する専門家がまだ少なく、今後の防災政策、支援活動、地域活動への浸透や実務家の育成にあたっては、まだまだ脆弱な環境です。大規模災害が起きた場合に、いち早く被災女性たちの被害や困難の実態を把握し、支援につなげていくためにも、災害とジェンダーの視点を持った専門家・実務家のネットワークが不可欠です。そのため自由参加の形式のもと、アカデミックな内容に限定せず、災害時の被害特性や支援の好事例、平時の啓発や施策に役立つテーマなどを取り上げながら開催します(年3~4回)。


●「災害とジェンダー 公開研究会(第1回)」を開催(東日本大震災女性支援ネットワークのウェブサイトより)

研究会の概要

日本では、災害とジェンダー分野を専門的に担う人材(*注1)がまだ少なく、それぞれ手探りで仕事をしている状況ですが、そうした人材のすそ野を広げることは、防災にも復興にも不可欠です。また現在、2015年の国連防災世界会議に向け、ポスト兵庫行動枠組みの内容が各国の関係者(民間団体を含む)によって議論・集約されつつある状況であり、仙台では、仙台市男女共同参画推進センターが中心となって、災害とジェンダーに関するサイドイベントが計画されているなど、災害とジェンダー分野の取組みや社会での認知をさらに加速させる大きなチャンスとなっています。 そこで2014年2月15日、東京都内で「災害とジェンダー 公開研究会」を開催しました。大学の研究者、男女共同参画センタースタッフ、女性支援団体関係者、医療従事者、災害救援関係者など、被災地からの参加を含めて15人ほどの参加をいただきました。 今回は、災害とジェンダー分野の研究の第一人者であり、実践者を含めた国際的ネットワークの中心ともなっている、米国社会学者のエナーソン教授らの業績から、その成果のエッセンスが理解しやすい2つの文献を紹介する形で開催しました(末尾で紹介)。 当ネットワークの池田恵子(静岡大学教授)が担当した文献2の『女性、ジェンダーと災害:グローバルな課題とイニシアティブ』では、目次で本書全体の構成を共有後、第4部「ジェンダーに敏感な災害リスク削減」より、23章「スリランカの津波復興をジェンダーの視点で:UNIFEMとそのパートナーの役割」と、24章「災害リスク削減をジェンダーの視点で:言葉を行動へ移す57のステップ」を紹介しました。 特に本書全体のほぼ締めともいえる24章は、国連防災戦略(ISDR)(※注2)のアクションプランである兵庫行動枠組みにおいてさえ、ジェンダー視点はその重要性が触れられているだけで、具体的な取り組みが提起されていないことから、これまでの研究や実践事例の分析を通して、どのように具体的な取り組みを行っていくべきかを提起したものです。 現在も、各自治体で男女共同参画の視点を入れた防災計画の見直しや人材育成の取り組みが模索されており、国連防災世界会議に向けた、国内の議論の高まりも期待される中、今回の文献紹介が取り組みの後押しとなったならば幸いです。

若手女性研究者による報告

また、文献紹介のあとは、二人の若手の女性研究者による、被災地をフィールドにした研究の概要について報告してもらいました。 東北大学大学院文学研究科博士後期課程(社会学)の板倉有紀さんは、ヴァルネラビリティ概念を軸とする中で女性の視点を整理し、東日本大震災で浮上した災害と女性に関する課題と女性視点の災害対応の意義についてまとめつつ、具体的なフィールドとしては、被災地での保健師の活動に焦点あてて研究を進めています。 また、早稲田大学大学院文学研究科後期博士課程(社会学)の川副早央里さんは、津波・原発・風評被害に加えて、同じ浜通りエリアの中でも相対的には低線量であることから、原発による大量の避難者が流入し、さまざまなあつれきの中で苦悩に直面しているいわき市の複雑な社会状況について、現場における丁寧なフィールドワーク・聞き取りの中で聞こえてきた女性たちの語りとともに報告してくれました。 今回は研究のアウトラインを紹介いただくということで、短時間での発表でしたが、参加者として得るものも大きく、今後の活躍が期待ますますされるところとなりました。 4月からは、新たな団体として研修プロジェクトは再出発しますが、多様な立場の方々とともに、研究会を継続して開催していく予定です。

紹介文献

文献1) 「ジェンダーと災害:成り立ちと展開」(‘Gender and Disaster: Foundations and Directions’ )。Handbook of Disaster Research(2007年)より、災害とジェンダー研究の第一人者であるエナーソンさんらが執筆した第8章を紹介。過去20年近くにわたる、各国の災害とジェンダーに関する研究論文を網羅的に読み込んでレビューしたもの。 文献2) 『女性、ジェンダーと災害:グローバルな課題とイニシアティブ』(Women, Gender and Disaster:Global Issues and Initiatives。2009年、E.Enarson & P.G. Dhar Chakrabarti 編集)。 同じくエナーソンさんらが編集し、災害とジェンダー研究の動向だけではなく、災害支援団体や女性団体によるジェンダーの視点の災害対応や減災の試みなど、現場の取り組みの国際的な動向をとりまとめた書籍。

※注1

ここでの専門的な人材とは、いわゆる大学の研究者だけではなく、シンクタンクや防災関係のコンサルタント、医療・福祉・子育で・教育などに関する専門職、男女共同参画センターの職員や相談員、自治体職員、女性の人権問題やDV被害者支援などに取り組む市民団体関係者、災害支援に携わるNPO/NGO・ボランティア関係者など、またソフトから建築・土木などのハードまで、立場も分野も多岐にわたるものと捉えています。このように、研究者から実践家まで、多様な人々の間の連携が防災・減災・復興には不可欠です

※注2

国連の国際防災戦略(ISDR)は国連総会によって2000年に設立されたプログラムで、自然災害やそれに関連する事故災害および環境上の現象から生じた人的、社会的、経済的、環境的損失を減少させるための活動にグローバルな枠組みを与えるという目的をもつ。ISDRは、持続可能な開発に不可欠な要素として、防災の重要性に対する認識を高めることで、災害からの回復力を十分に備えたコミュニティーを作ることを目ざしている。(ISDR兵庫事務所ウェブサイトより)

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