災害時の要配慮者支援と多様性配慮

●二つの違い

災害が被災者に与える影響の種類や程度は、一人ひとりの被災者それぞれに異なりますが、そうした違いをもたらす要因については、性差以外にも、年齢、障害や病気の有無・種類、国籍・母語などがあります。こうした違いの多様性に配慮しながら被災者の状況を理解し適切な支援に取り組むことを、当センターでは災害時の「多様性配慮」と表現しています。性別(ジェンダー)も多様性の一つではありますが、性別の視点は被災者支援においてたいへん大きな要素となるため、「ジェンダー・多様性配慮」と呼ぶこともあります。

災害時要援護者と多様性配慮

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日本の防災政策には災害時に最も配慮すべき対象を指す言葉として、災害弱者、災害時要援護者や要配慮者といった言葉があり、その対象は、高齢者・障害者・乳幼児・妊産婦・傷病者・外国人を指します。これは、災害が起こった場合のハンディの有無(リスクに関する情報を把握したり、判断して行動したりできるかどうか)と、環境変化(避難生活など)の影響を受けやすいかどうかが、その根拠となっています。

では「多様性配慮」との相違はどこにあるのでしょうか?似ているのは、 災害時要援護者(要配慮者)支援と同じように、人々が災害で受ける影響の傾向・特徴を把握し、そのための配慮・対策を実施することを重視する見方です。

しかし違いもあります。それは、一人の被災者が受ける災害の影響を、さまざまな角度から見て「複合的」に支援することを重視する見方です。たとえば、あなた自身の生活状況と、年齢も性も異なる身近な親族や友人の生活状況とを比較してみるとよいでしょう。性別・年齢・障害の有無・小さな子どもや要介護の家族の有無・住んでいる地域の安全性・家族構成・経済力・家庭や社会における発言力・国籍・人種・宗教の違いなどにより、その生活状況はそれぞれに違いがあり、それを前提に災対対策や救援、復興に取り組む必要があるのです。

被災者一人ひとりが多様性をもっている

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●「脆弱性」「復元・回復力」と脆弱な立場の人々の「参画」

防災分野における国際的な議論の場では、この「多様性配慮」の視点は主流となっており、「脆弱性」(Vulnerability)と「復元・回復力」(Resilience)という言葉で表されています。
「脆弱性」とは、災害の影響を受けやすい状態を示し、その要因は、個人の状態から社会的要因まで、幅広くとらえられています。一方で「復元・回復力」とは、たとえ「脆弱」な人々、「脆弱」な地域コミュニティであっても必ず持っている力のことです。

国際的な議論で注目すべき点は、脆弱とされる人々や地域が持っている「復元・回復力」を高めることこそが、災害で受ける被害を減らすのだ、と考えられている点です。つまり、たとえ災害時により多くの配慮・支援が必要な人々や地域であっても、当事者としての主体性や能力を持っており、防災対策・災害救援上も、それぞれの力を発揮できるようにすることが非常に重要だということです。

たとえば女性たちが、防災計画づくりの場や災害救援組織、地域組織などにおいて、支援の方針や活動内容を決定する立場に就くことができれば、女性たちが災害に立ち向かう力を引き出してさらに強めることができます。また障害者も、自らの力を発揮できる環境が整えば、災害支援に関する要望を述べることや必要な行動をとることができます。子どもや外国人でも同様です。

災害時に直面する困難な課題とそれを乗り越えるために必要な支援は、当事者やその直接の支援者が一番よく理解しています。多様な立場の人々の知見と能力が生かされるよう、地域コミュニティや社会において、誰もが発言力をもって活動できる環境を整えることや、それぞれの能力を発揮できるようにしていくことが、地域と社会全体の防災力の向上につながるのです。

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