11月の釜石に引き続き、12月16・17日と、福島と宮城で支援活動を継続している、福島県助産師会会長の石田登喜子さん、ウィメンズアイ代表の石本めぐみさんにお話を伺ってきました。今回はそのうち、福島県助産師会による、震災後の妊産婦支援事業についてご紹介します。
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一般社団法人福島県助産師会では東日本大震災後の大変厳しい環境の中、妊婦・母子の訪問、助産所での母乳育児支援、子育てサロンの開催、助産所での産後入所ケアと産後デイケア、電話相談などの支援を継続して行ってきました。事業実績は表の通りですが、お話をうかがうと、こうした数値では表現しきれないだけのたいへん大きな役割を果たされてきたことが理解できます。
政策的には一応、「妊婦の検診、出産後の保健師の訪問、乳幼児の健診」がありますが、回数は限られており、しかもそこで問われるのは赤ちゃんの健康状態だけです。つまり、赤ちゃんがとりあえず健康状態をクリアしている限り、お母さんがどんなに追い詰められていても問題とはなりません。そうした状況での福島県助産師会の支援活動ですが、特に、1日3,000円で受けられる「産後の入所ケア事業」をめぐるお話が印象的でした。
お母さんたちは出産後、病院にいる間だけは周囲の支援があってなんとかなりますが、家に戻った途端に大変な状況に追い込まれます。泣く赤ちゃん、寝不足になりながらの授乳、おむつ替えなど、一つ一つが初めてで慣れないだけでなく、「本当に赤ちゃんは育っているのか?」「自分の育児方法は間違っていないのか?」などと、日々不安の連続です。
その上、核家族が増えたこと、妊産婦の親世代たちも生活のため毎日働いているケースも多いことなどから、今は、一人でたいへんな育児に向き合っていかなくてはならないお母さんが増えていると石田さんは言います。そうしたお母さんたちが、助産所でゆっくりと支援を受けながら、育児に関するアドバイスももらえるのが産後の入所ケアです。どれだけ新米ママさんたちの助けになることでしょう。
なお、こうした取り組みの成果により、県内の病院に務める助産師や市町村で母子保健を担当する保健師との連携もできているそうです。
恥ずかしいことに私はこの日、福島特有の困難というお話がメインになることを予想していただけに、そもそも日本社会における妊娠・出産をめぐる環境がとても悪化している状態なのであり、それが福島では震災後の厳しい環境で一気に顕在化したのだと捉えているとの石田さんの言葉に、少なからず衝撃を受けました。
もちろんわたしたちの社会は、原発事故に関連して妊産婦が抱えるさまざまな悩みや不安にきちんと正面から向き合っていく必要がありますし、現実に福島の女性たちは、他の地域の妊産婦さんよりもさらに多くの不安を抱えながら妊娠・出産・育児に向き合っていることでしょう。しかし同時に、家族形態の変化に加えて、非正規雇用の増加、改善されない長時間労働、格差・貧困問題、老後不安といった問題が、さらに育児・出産を巡る環境を悪化させていることにも、目を向ける必要があると改めて思いました。
日本で女性たちが安心して産み育てることができる環境を実現させていく必要性を考えた時、福島県助産師会による包括的な妊産婦支援事業は、日本の未来を切り開く先進事例と言えるのでしょう。ちなみに福島県助産師会では、当初は民間による助成金を基にしてこれらの支援事業に取り組んできましたが、現在は福島県の補助金によって事業を展開できる状況になっているとのことです。今後とも、こうした行政と専門職能団体が協働するかたちでの支援事業がしっかりと継続され、全国に広まって欲しいと思いました。
(文責:浅野幸子)
表 福島県助産師会母子支援事業の実施件数 推移
(出典:「福島に続け――低料金でも手が届く助産師のケア」『助産雑誌』vol.69 no12 December)
事業内容 |
2011年3月~ |
2012年度 |
2013年度 |
2014年度 |
妊婦・母子訪問 |
1041 |
1001 |
1053 |
1328 |
助産所での母乳育児支援
|
151 |
339 |
456 |
622 |
子育てサロン
|
県内6カ所,
|
県内16カ所,
|
県内19カ所,
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県内23カ所,
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助産所での産後入所ケア
|
県内4カ所,
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県内3カ所,
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県内3カ所,
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県内3カ所,
|
助産所での産後デイケア
|
県内5カ所,
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|||
電話相談 |
1044 |
877 |
1269 |
|
母乳の放射性物質濃度検査受付
|
559 |
59 |
19 |
福島県助産師会『東日本大震災支援活動報告集~あれから3年』(2014年3月)より作成
※母乳の放射性物資濃度測定検査の結果はすべて「未検出」