3月3日にJICA市ヶ谷で、公開イベント「ジェンダー・多様性と災害リスク削減: アジアの現場から」が開催されました。
第3回国連防災世界会議で、日本政府は「仙台防災協力イニシアティブ」を発表し、その具体的な施策の一つとして防災における女性のリーダーシップを推進するための研修の実施を表明しました。この政府のイニシアティブを受けて、JICAは、招へい事業「ジェンダー多様性の視点からの災害リスク削減」を実施し、アジア7カ国(インドネシア、スリランカ、タイ、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム)から各国のジェンダーや防災の行政官とNGOの方を招きました。当センターは、この招へい事業の国内支援委員として、プログラム全体への助言と一部の講義を担当しました。
公開イベントは、アジアからの参加者が、東北の復興の現場を訪問して相互に学びあった結果を含め、防災に関する政策・計画等の策定と実施においてジェンダーや多様性の視点を取り込んできた成果や課題を共有するために行われました。
パネル討議では、参加者たちがそれぞれの国で、ジェンダーや多様性の視点に立った災害リスク削減の推進にどのような手法で取り組んできたのか、実施の過程でどのような課題があったのか、それをどう克服できるのかについて、3名の参加者に加え、田端八重子さん(一般社団法人GEN・J)が報告しました。当センターの池田がモデレーターを務めました。その議論の内容を以下に簡単にまとめます。
●大震災後のネパールの現状について
〜〜〜A.アディカリさん(ネパール・NGOルーラリコンストラクションネパール)
昨年大地震を経験したばかりのネパールの状況について報告したA.アディカリさん(ネパールのNGOルーラリコンストラクションネパール)からは、不利な立場にある人々がしっかりと支援対象に入りつつ、実質的な参加ができるようにするための取組について、普段から地域社会にある教育や保健、労働などの格差の問題への取り組みを基礎とする必要性や、人々が復興や開発の方向性に関して政府に説明を求める権利があると理解できるよう働きかけることが重要だという報告がありました。
●災害に脆弱な人々に対する経済的・人的エンパワーメントの事業と災害リスク削減の事業の連携
〜〜〜スリランカ・A.セネビラトナさん(防災研究開発局)
スリランカのA.セネビラトナさん(防災研究開発局)からは、災害に脆弱な人々に対する経済的・人的エンパワーメントの事業を、災害リスク削減の事業と結び付けて行う取り組みの紹介がありました。すでにある貧困対策やセーフティーネット関係の事業を活用して災害に弱い人々を集中してエンパワーしていくと言うやり方は、コスト面でも実現可能性の高いものでないかと思われます。様々な公共政策分野で、政策や事業が、新たな災害リスクを生み出したり、今ある災害リスクを悪化させたりしないよう、そしてより積極的に災害リスクを削減できるよう、そしてそれをジェンダー多様性の視点を組み込んで行うためのセクターごとの災害リスク削減ガイドラインが作られる予定だそうです。
●ジェンダー多様性の視点に基づいた災害リスク削減を実施するための連携
〜〜〜フィリピン・M.サセンドンシィリオさん(地方行政学院)
フィリピンのM.サセンドンシィリオさん(地方行政学院)からは、ジェンダー多様性の視点に基づいた災害リスク削減を実施するための地方行政レベルを結ぶ垂直方向の連携、そして企業や市民団体組織、地域組織、行政という異なるセクターの水平方向の連携をつくっていく長期的計画が紹介されました。
●女性防災リーダーの養成について
〜〜〜田端八重子さん(一般社団法人GEN・J)
田端さんからは、暮らしの中のジェンダー不平等、日常の社会に役割分担や女らしさ男らしさという固定された概念にもとづく不平等がある中を、地域組織と連携して女性防災リーダーの養成や避難所運営マニュアルを作ってこられたお話しをお聞きしました。
このパネル討議を通して、ジェンダー主流化や多様性への配慮が何かなぜ必要か分かりやすく説明することや、ジェンダー多様性の視点を持った災害リスク削減の計画作りに欠かせない性別年齢別のデータ整備の必要性、そして広い開発セクター(産業や教育、保健などの政策分野)を通して災害リスク削減を行う具体的な手法を確立するという課題が再確認されました。
仙台防災枠組の実現のためには、多くの視点から考えていかねばなりません。まず、災害リスク削減に取り組みための政策や計画、制度・組織など、根拠となる仕組みづくりが必要です。そして、リスク査定やリスク削減の計画を実行する人が、ジェンダー多様性の視点を組み込んで行うための具体的なスキルを身につけ、ジェンダー別統計を使いこなすようになるよう、執行能力・運用能力を高める必要性もあります。そして、脆弱な人々の参加を求めていくためには、ただ参加の仕組みを作るだけではだめで、有意義な参加ができるような経済的・人的なエンパワーメントも同時に行っていく必要があります。
日本と同様に大きな災害を経験してきたスリランカやネパール、フィリピンなどの国々が、試行錯誤を繰り返しながら、ジェンダー・多様性の視点に基づく災害リスク削減を実現しようとしているということは、私たちにとっても大きな励みです。具体的な手法に学びつつ、日本でも災害リスク削減という言葉が、現実の施策として実施できるよう、取り組みを支援していく必要があると強く感じました。