人道支援における「プロテクション」(被災者の権利保護)の考え方と連携

文責:浅野幸子

〔1〕国際的な人道支援現場での女性・子ども等のための連携

 

国際的なネットワークのもとで行われる人道支援では、「プロテクション」、つまり「被災者の権利保護」という考え方が重視され、スフィア・プロジェクトをはじめとした人道支援の質を担保するための国際基準でも、中核的な概念として取り入れられています。

なぜこのように、「被災者の権利保護」の考え方が重視されるのかといえば、紛争や災害では、最も支援を必要とする人々、最も弱い立場にある人々ほど、支援が行き届きにくいという現実があるからです。申し上げるまでもありませんが、減災と男女共同参画 研修推進センターでも、こうした「被災者の権利保護」に関する国際的な議論や具体的な支援のあり方を示した国際基準等も参考にしつつ、日本の現状や、政策動向、地域防災や災害支援ボランティア活動の現状に合わせながら、よりわかりやすく普及することを通して、国内の現場でこれらの視点と実践が定着していくことを目指して日々活動しています。

さらに近年、国際的な人道支援活動の現場では、効果的な支援を行うために同じテーマ・分野で活動する国内外の政府機関、民間支援団体、国連機関等の間の連携・調整の場が設定されるようになっており(クラスター・アプローチ)、そこでも、特に社会的に弱い立場におかれている人たちの支援を目的とした「プロテクション」分野が設定され、子もどや女性の支援に関わる関係者が連携して支援活動を行うようになっています。

5月31日に行った第1回公開研究会で、ネパール大地震の被災地における女性支援の様子に関する田中雅子さんのお話の中でも、実際にクラスター・アプローチによる分野ごとの調整の場が設けられ、「プロテクション」分野では女性支援に関して、ネパールの政府機関・民間団体と国連機関および国外の民間支援団体が連絡・調整を行いながら、被災した女性たちの支援を行っている様子が報告されました。

東日本大震災では、女性、子ども、障害者といった対象別の支援も行われましたが、連携は不十分で手探り状態で支援活動は行われていきました。今後も、首都直下地震や南海トラフ地震といった被災人口としては一層大規模となるであろう地震災害の発生が予測されていることを考えると、国内においても「被災者の権利保護」の考え方をさらに共有しながら、支援関係者(行政・民間団体・専門家など)同士のネットワーク化を進め、実際に災害が起こった場合には、海外の諸機関・諸団体ともスムーズに連携できるようにしておく必要があるかもしれません。

そこで参考資料をもとに、あらためてこの「被災者の権利保護」という考え方について整理したうえで、特に子ども・女性・障害者について、どのような配慮が必要とされているかについて共有したいと思います。

 

〔2〕プロテクション(被災者の権利保護)とは?

 
この、国際的な人道支援の現場で重視されている「プロテクション」の考え方ですが、平成18年度に外務省が主催し、国内のNGOが主体となって取り組んだ「人道支援におけるプロテクション」に関するNGO 研究会の成果としての「プロテクション・ガイドライン」 )によると、「プロテクション」に関して国際的に確立している定義はないものの、「個々人の権利が国際的に確立されている条約(例 人権、人道及び難民法)の文言及び精神にのっとって十分に保護されるよう確保することを指向するすべての活動。あらゆる人権及び人道機関はこれらの活動を偏りなくまた人種、国籍、言語及びジェンダーに関わらず行わなくてはならない」という、1999年に国際赤十字委員会が実施したワークショップの参加者により理解され、現在広く普及している考え方を紹介しています。

その「プロテクション」の考え方を根拠づける重要な条約などがいつくかありますが、主に次の3つに分類されます。一つ目は国際人権法(世界人権宣言をはじめとした人権に関する条約や宣言と、それらを実施するための国際的、国内的な制度や手続きの体系で、子どもの権利条約、女子差別撤廃条約、人種差別撤廃条約なども含まれる)、二つ目は 国際人道法(「1949年のジュネーブの4つの条約」と「1977年の二つの追加議定書」を中心とした、様々な条約と慣習法の総称。武力紛争(戦争)で、負傷したり病気になった兵士、捕虜、武器を持たない一般市民の人道的な取り扱いを定めた国際法)、そして国際難民法(難民を迫害の待ち受ける出身国へ送り返さないということを含めた、「難民の地位に関する条約」「難民の地位に関する議定書」を中心とする一連の法体系)です。

こうした条約などの規範に加えて、全ての人に共通して確保されるべき事項として、以下の二つが重視されています。被災者保護の責務を負うのは第一に国家ですが、国からの保護が受けられない人、紛争や大地震による被害者の数が膨大で国家としての対応能力を超えてしまっているような場合は、国家による保護活動の補完的な位置づけとして、国際機関やNGOが支援活動を行うことに大きな意義があります。

 

①尊厳ある生活を営む権利

…生命・自由及び安全が確保されること、十分な生活水準が保障されること、拷問又は残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱いまたは刑罰からの自由。

②非差別原則

…人種、皮膚の色、性別、言語、宗教又は信念、政治的もしくはそのほかの意見、国籍・人種もしくは社会的出自、法的もしくは社会的地位、年齢、障がいの有無、財産、家系、その他類似の基準に関わらず、平等な支援を提供することが求められる。

 

〔3〕対象別の論点 ~子ども・女性・障害者を中心に

 
「プロテクション」は、主に3つのカテゴリー、つまり物理的な保護(基本的な自由があり、身体の安全が確保されている状況)、社会的な保護(物質的なニーズ、教育、健康等が保障されている状態)、法的な保護(権限のある当局に登録がなされ、その場所での滞在が認められている状態)に分類することができます。

また、支援の実践においては「プロテクション」は二通りの捉え方があります。広い意味では、特定のプロジェクトを指すということではなく、食料配給や衛生状態の確保といった個々の事業の実施に権利保護の考え方を入れ込むことで、全体として支援を受ける人たちの権利が確保され、社会的に弱い立場におかれている人々も食料配給等からもれずに、保護されている状況を目指すものです。一方で狭い意味で用いる場合には、弱者保護といった文脈や、法的な保護を指すことが多くなります。

ガイドラインの「3.各論」(p8~)では、人道支援の現場でとりわけ配慮されるべき対象別に、その特徴やどのような保護が必要なのかについて、根拠となる条約の条文等も示しながら解説しています。ここでは文字数の関係から、子ども・女性・障害者の部分のみ抜粋する形で紹介します。そのほか、高齢者、難民、社会的少数者が対象として挙げられています。

 

1)子ども

子どもは、身体的にも精神的に未熟であるため、法的保護を含めて特別な保護及び世話を必要となります。特に注意を要する子どもたちとして、親や保護者と離ればなれの子ども、障がいを持つ子ども、以前子ども兵士であった子ども(女子も含む)、子どもだけの家族が挙げられます。なお、国際法では子どもを18歳未満と定義していますが、通常は国内法が優先します。
 

▽子どものために守られるべき事項

①家族と一緒にいること
(本人の意志に反して家族と引き離されないこと、引き離されている子どもと親が再び出会えるようにすることなどである。もちろん、子どもが虐待されている場合はこの限りではなく、適正な手続きの上で、子どもを保護する必要がある)

② 教育を受ける機会が確保されること

③ 性的暴力・虐待に遇わないようにすること

④ 働かせないようにすること(強制労働・搾取からの保護)

⑤ 物理的な危険(紛争、暴力)からの保護

⑥ 戦闘行為全般に関与させないこと

⑦ 援助から子どもが漏れないこと

⑧ 感染症にかからないようにすること

⑨ 人身売買されないこと(養子縁組の際も注意すること)

⑩ 国籍を否定されないこと(特に難民の場合)

⑪ 子どもの声がプログラムの策定に反映されること/子どもの最善の利益が考慮されること

 

2)女性

女性に対する差別は広範に存在しており、窮乏状況では女性が食料、健康、教育、雇用のための訓練及び機会、他の必要なものを受ける機会が最も少ないという状況があるため、特別の保護を必要であるとしています。特に配慮が必要なのは、1人きりの女性、家長である女性(特に最近家長になった女性)、障がいを持つ女性(もともと家の外で活動をすることがあまり無く気づかれない場合が多くあること、女性の特有の病気の存在が公に語られることをよしとしない、問題が表面化することが滅多に無いなど、援助関係者の間で気付かれない可能性も高いこと、加えて家庭の内外での暴力、性的な搾取等にさらされやすい)、性的暴力を受けた女性、妊娠中の女性であるとしています。
 

▽女性のために守られるべきこと

①教育を受ける機会が男性と同様に確保されること。
(家族の健康及び福祉の確保に役立つ特定の情報も提供すること)

②性的暴力・虐待に遇わないようにすること

③ 働く機会を確保すること

④ 物理的な危険(紛争、暴力)からの保護

⑤ 援助から女性が漏れないこと

⑥ 人身売買されないこと

⑦ 保健において差別されないこと
( 保健サービス(家族計画を含む)において、女性が差別されないようにすること。

⑧ 女性の声がプログラムの策定に反映されること
(プログラムの策定にあたり、女性の声を聞くような機会を設けること、女性の参画する機会、質を高めていくこと。(できれば、会合の50%が女性であることが望ましい))

 

3)障がい者

障がい者は、先天性であってもそうでなくても、身体的または精神的能力にハンディがあることから、日常生活を自身で送ることに困難がある人を指しています。特に人道支援を必要とする地域では、紛争、地雷、地震などによって、新たに障がいを持つ人たちが生み出されてしまう現状があります。中でも特別に注意を要するのは、社会的弱者の人たち(女性、子ども、マイノリティ、高齢者など)の中で、さらに障がい者である人たちです。複合差別によって、より弱い立場におかれることがあるため、特に配慮が必要です。

▽障がい者のために守られるべきこと

① 搾取、差別的虐待、過酷な取扱い等から守られること。

② コミュニティの一員として暮らし、社会的活動に参加する権利が確保されること。
(コミュニティの中で障がい者のみが隔離されず、障がいがない人とともに暮らし、社会的な活動に参加していけるよう確保する)

③ 支援への平等なアクセスを確保すること。
( 障がいのある人が、障がいを理由に支援から排除されず、適切な安全な水、食料、衣料、住居が提供され、個々の障がいのニーズに応じた支援が受けられるよう確保されること)

④ 社会の中において不当な差別を受けないこと(就職、結婚等)

災害支援ツールの公開(2014年8月の西日本における土砂災害にあたって)災害時の被災者ニーズに関する聞き取りシート(2種)& 支援者のためのチェックシート ~要配慮者支援の視点・女性へのアプローチを重視して

各地に大きな土砂災害の被害をもたらした豪雨。被災地では、直接土砂の被害を受けた方はもちろん、引き続き土砂災害の危険性のある地域の方など、多くの人たちが避難生活を余儀なくされています。災害ボランティア等による支援活動も進められています。

そこで減災と男女共同参画 研修推進センターでは、支援に関わるみなさんの参考になればと、ジェンダー・多様性配慮の視点を反映させた、被災者の方への聞き取りシート(2種)を作成しましたので、紹介させていただきます。
 

また、支援のあり方について検討する際に役立つよう、内閣府の「男女共同参画の視点からの防災・復興取組み指針」の概要および、同 解説・事例集の、避難所の環境整備及び仮設住宅に関するチェックシートと、世界中で活用されている人道支援の国際基準である「スフィア基準」より、ジェンダー・多様性配慮に関連した部分を抜粋・意訳したものも紹介させていただきます(2)。

このたびの水害支援に関わる方をはじめ、各地で活用いただけますと幸いです。

 

(1)災害時の要配慮者支援を充実させるための被災に関する聞き取りシート(2種)

避難所の方向け(PDF)

在宅避難者の方向け(PDF)

 

(2)支援者の方向けの参考資料(内閣府の指針より)

①「避難所チェックシート(PDF)」 

②「応急仮設住宅チェックシート(PDF)
(ともに「内閣府男女共同参画局ウェブサイト 男女共同参画の視点からの防災・復興取組み指針 解説・事例集」より)

「スフィア基準に基づくジェンダー・多様性配慮のチェックリスト」(PDF)
(『男女共同参画の視点で実践する防災対策 テキスト 災害とジェンダー<基礎編>』より)

 
<活用される方へのメッセージ>

(1)被災に関する聞き取りシート

災害時に困難な状況におかれる傾向のある人たちの支援を充実させるためには、日頃から育児・介護に携わることが多く、家族の健康や衛生に気を配っている女性たちにこそ、重点的に現状や要望についての聞き取りをすることが不可欠です。しかし被災地では、女性たちの意見が汲み取られにくい状況に置かれたままになっているという状況は良く見られます。

したがって女性の視点は、女性のためだけではないということの理解を関係者の中で広く得ながら、効果的な聞き取りが進められるようにするためにも、こうしたシートが役立つと考えました。

聞き取りシートは、A4サイズで2ページのコンパクトなもので、立ち話などによる聞き取りでも活用しやすいように作っていますが、被災者の方自身に書きこんでもらうことも可能です。

文章を記入する欄はほとんどなく、チェックリスト形式なので、時間もかかりません。男性の被災者の方への聞き取りにも使えますし、聞き取りを担当する人が男性でも、内容が理解しやすく聞き取りを行いやすいよう、工夫をしています。

 

(2)支援のあり方に関する参考資料(内閣府の指針およびスフィア基準より)

東日本大震災で明らかになったさまざまな課題を踏まえて、2013年5月、内閣府男女共同参画局より、「男女共同参画の視点からの防災・復興取組み指針」およびその「解説・事例集」が公開されました。指針の概要はこちらです(内閣府男女共同参画局ウェブサイト 男女共同参画の視点からの防災・復興取組み指針 解説・事例集)。

被災者支援において、男女共同参画(ジェンダー)の視点がなぜ必要なのか、防災政策や被災者支援に具体的にどのように反映させていくべきかについて網羅的に記述されています。もちろん、災害時要援護者(要配慮者)の支援とも密接に結びついていることも強調されています。

中でも、指針の「解説・事例集」の最後に掲載されている、避難所および応急仮設住宅チェックシートは、A4サイズ1枚で、そのポイントがわかりやすくまとめられています。

また、国際赤十字運動、国連、災害救援に関わる国際協力NGO等の関係者で作られ、世界中で活用されている、人道支援に関する国際基準「スフィア基準」(日本語訳 難民支援協会のウェブサイト)から、性別や多様な立場に配慮した支援を行う際に重要となる部分を抜粋し、日本の文脈にあわせて翻訳したものを、当センターが作成したテキストより紹介させていただきました。

2015防災世界会議日本CSOネットワーク(JCC2015)に参加しています

2015防災世界会議日本CSOネットワーク(JCC2015)は、2015年3月に仙台で開催される「第3回国連世界防災会議」にむけて海外の市民社会の人々とも協調しつつ、「ポスト兵庫行動枠組(HFA2)」の策定に参画し、それを含めた持続的で災害に強い社会の構築に向けて、世界の人々と共に学びを分かち合い提案していくための、日本のCSO(市民社会組織)のネットワークです
(取り組みの詳細はJCC2015のウェブサイトhttp://jcc2015.net/をご覧ください)。

特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)内に事務所が置かれ、24の幹事団体が運営を担っています。2014年3月24日時点で、80団体が参加しているそうですが、当センターもこのネットワークに参加しており、今後も情報の共有や、関連した情報の発信につとめていきます。

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