●<熊本地震>「想定外」宮城の教訓届かず
(河北新報 2016年5月1日10時23分)
30日で本震から2週間となった熊本地震の被災地では、建物などの耐震化の遅れが多くの被害を招いた。熊本では「大地震は来ない」という意識が強かった。1978年の宮城県沖地震で危険性がクローズアップされたブロック塀の倒壊による犠牲者も出た。東日本大震災を含めた宮城の教訓は届かず、思い込みは街や暮らしを無防備にした。
「まさかここで大地震があるとは誰一人思わなかった。想定外も想定外だ」
震度7を2回記録した熊本県益城(ましき)町。町内の無職男性(83)は壁にひびが入り、立ち入り禁止となった町役場を見上げた。男性は自宅が傾き、近くの合志(こうし)市の娘宅に身を寄せる。
台風の常襲地帯。風水害への備えはあるが、地震防災という考え方は頭になかった。男性は「台風なんて来てもたかが知れているが、地震には困った。こっちでは地震保険に入る人はほとんどいない」と話した。
日本損害保険協会によると、2014年度の地震保険の世帯加入率は宮城県の50.8%に対し、熊本県は28.5%。震災後、被災した宮城は大きく伸びたが、地震への備えの必要性は熊本まで届かず、意識の差は歴然だ。
<同じ悲劇>
今回、益城町や隣接する熊本市東区沼山津(ぬやまづ)地区ではブロック塀の倒壊が相次いだ。鉄筋が入っていなかったり、施工がずさんだったりする例が目立った。同町では熊本市の男性=当時(29)=が道路側に倒れたブロック塀の下敷きになり命を落とした。
宮城県沖地震ではブロック塀の倒壊などで28人が亡くなり、危険性が注目された。同じ悲劇が熊本で繰り返されたことになる。
「壊れたブロック塀は、(塀を直角に支える控え壁などを義務付けた)建築基準法や施行令をクリアしたケースがほとんどなかった。素人が積んだ塀も多いようだ」
そう分析するのは、熊本地震の被災地を調査した古賀一八福岡大工学部教授(建築構造)。ブロック塀の危険性について「熊本をはじめ九州一円にあるのではないか。(背景に)大きい地震が来ないという思い込みがある」と指摘する。
その上で「宮城県沖地震後、宮城では総力を挙げてブロック塀を総点検した。そのため東日本大震災では倒れたブロック塀が少なかった。宮城の教訓を全国に広めなければならない」と訴える。
<「よそ事」>
建物の耐震化も進んでいないようだ。益城町などの古い木造住宅は激しい揺れで基礎部分から柱が抜け、1階が押しつぶされた例が多かったという。
古賀教授は「耐震基準が強化された81年以前の建物は地震で軒並み被害に遭った。阪神大震災(95年)を受けた00年の改正以前に建築された建物も被害が目立った」と説明する。
自宅が傾き、夫(67)と車中泊を続ける町内のパート大原まき子さん(64)は自宅を建て直そうと考えている。「耐震化はよそ事だと思っていたが、重要性を改めて知った」と打ち明けた。
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201605/20160501_13015.html