熊本地震から考える 「学校が閉まっていて避難できない」
(WEDGE Infinity 2016年05月31日)
熊本地震から1か月半が過ぎ、余震の震度は報道では弱まってきましたが、まだ警戒が必要なようです。
そして、テントや車上での避難生活を余儀なくされている方も多いとのことから、エコノミークラス症候群や、暑くなってきたので食中毒なども心配されはじめてきました。
いっぽう、ほとんどの学校は再開されたようですが、他校の校舎や保育所などを間借りしての再開や、ある学校では図工室や家庭科室のほか、多目的ホールを高いボードで仕切り2つの教室にして使っているそうです。
またある中学生は、間借りして再開した学校までの通学には1時間以上かかるため、避難中の中学校にそのまま通っているとのこと。
■知人が熊本へ支援に
そんな中、私が役員の学校と地域の融合教育研究会の仲間の会員が、熊本へ支援に駆けつけました。
そして、以下の内容をメールで知らせてくれました。
「岸ゆーくん先生、ごぶさたしています。実は今、熊本にいます。九州・山口災害協定に基づき、山口県庁・市町村から総勢50人が益城町の南隣・御船町に派遣されることになり、山陽小野田市を代表して金曜日から支援物資の配給に従事しています」と。
そして、前回の私の連載「災害時、避難所となる学校 運営の問題と再開の課題」の記事に触れながら続けます。
「記事の学校支援本部と避難所の話は、お伺いしていたので、実際に現場の様子を体感する必要があると思い、立候補して派遣されました。50人の雑魚寝は、少ししんどいですが、避難されている方のことを思えば、そんなこと言ってられませんね。また、お会いした時に今回のお話をさせていただきます」と。
この方、和西禎行さんは、山口県の山陽小野田市教育委員会の社会教育課の課長で青年の家所長と中央公民館館長も兼務しています。
和西さんのように全国から支援に駆けつけているようで、心強く思います。
■学校は年間の約80%の時間帯は閉まっていて避難できない
ところで、前回に続き学校の避難所機能について考えたいと思います。
4月14日にマグニチュード6.5の前震が発生した熊本地震は夜の21時26分頃。さらに、その28時間後の4月16日の土曜日にマグニチュード7.3の本震が起こったのが真夜中の午前1時25分頃でした。
14日も16日も学校には誰もいない時間です。
では、その時間に避難者が避難所の学校に駆け込んだ際に、だれが鍵を開けて解放したのでしょうか。
図は横軸が1年365日を表しています。そのうち公立学校の開校日は年間だいたい200日間です(私立は別です)。ということは、休校日は年間45%の日数に相当する165日間もあります。対して縦軸は、1日24時間を表します。学校教育として使われている時間帯は、朝の8時から16時までの8時間(中学や高校の授業外の部活は除きます)。
つまり、年間の標準的な公立学校の開校総時間数は1,600時間(8時間×200日)ということです。すると、年間の総時間数は8,760時間(24時間×365日)なので、開校総時間数比率は年間の約18%ということになります(1,600時間÷8,760時間)。これに、休校日の教職員の必要出勤日数の23日をプラスすると(23日×8時間=184時間=年間時間帯の約2%)、開校時間比率18%+休校時間帯での教職員の必要出勤時間比率2%=20%となります。
結果として「学校に人がいる合計年間時間=鍵が開いている時間」は、1,784時間(1,600時間+184時間)です(残業や無休出勤などは除く)。
逆にいうと、年間約80%の時間帯は「学校は閉まっていて避難できない」のが現実なのです。
■学校の鍵は住民も持つべき
さて問題は、早朝や夜中も含めた約80%の学校が閉まっていて避難できない時間帯に巨大地震が発生し、住民が避難所の学校に駆けつけたらどうなるのでしょうか。誰もいないので当然鍵がなく学校内に避難することができませんよね。
阪神淡路大震災は1995年1月17日の早朝5時46分に発生しました。家屋が倒壊した住民らは命からがら避難所の学校に駆けつけました。しかし早朝で誰もいなくて鍵が開きません。ではどうしたのでしょうか。一部では窓ガラスを割って解放したのです。命の問題ですからガラスを割ったってよいのですが、電気もガスも止まり真冬のためにその日の夜中から冷気が侵入して凍えたそうです。
だから、住民が安心して避難するためにも学校の鍵を住民が持つことが住民自治での自主防災の観点からも重要な都市政策といえるのではないでしょうか。
■スクール・コミュニティは住民自治での自主防災の学校
同時に校舎内施設も「生涯学習社会の実現」のためと、余裕資源の有効活用のためにも住民と共用・共有しないともったいないと考えます。
学校教育に使われない生涯学習などのために開放可能な時間数は、放課後だけでも1,000時間(16:00~21:00=5時間×開校日200日)もあります。休校日にいたっては2,145時間(8:00~21:00=13時間×休校日165日)もあり、放課後の時間との総時間は3,145時間にもなります。
つまり、年間8,760時間の約36%にも上ります。なので、少なくてもその時間数は住民だれでもが活用できるように共用・開放することが望まれます。
校舎内には、即生涯学習の推進に転用可能な家庭科室やパソコン室、工作室や視聴覚室などの特別教室がありますからね。
秋津モデルのスクール・コミュニティは、校舎内1階の4つの教室=秋津小学校コミュニティルームの鍵を住民委員15人が持っていることから、3.11東日本大震災の際には避難所としての機能を住民自治で果たすことができました。このように、スクール・コミュニティは自主防災の学校でもあるのです。
■狭義と広義の2つの学社融合を推進する
スクール・コミュニティ
ところで図中の「狭義の学社融合」は、学校の開校時間帯での住民との授業や行事などを協働する状態を示します。ですから、子どもらは学校の授業にカウントされます。
また「広義の学社融合」は、開校時間帯以外を含む学校施設の住民への共用・開放の状態です。上限年間365日を通して実施可能ですが、学校の授業ではないことが大きな違いです。
秋津小学校の校庭に手掘りで掘った防災用の井戸水でドラム缶風呂を楽しむ秋津の子どもたち
秋津のスクール・コミュニティは、この狭義と広義の2つの学社融合の推進により、学校を拠点とした生涯学習・次世代育成・まち育てにまでいたってきています。
さて、熊本は暑くなってきました。ご自愛いただき心身ともにお元気になられることを祈念しています。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6868?page=1