「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」(新指針)の概要と特徴

2020年5月、内閣府男女共同参画局が旧指針を改定する形で、「災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~」を策定しました。

何が強調され、どのような項目が新たに加わったのかについて、ガイドライン検討会の座長を務めた、当センター共同代表の浅野幸子が解説します。

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日本の防災政策に、男女共同参画の視点が初めて入ったのは、2005年ですが、国際動向と2004年新潟県の発生を受けたものであり、全国の自治体における取組はあまり進みませんでした。しかし、2011年の東日本大震災では、女性たちや要配慮者の方たちの困難が顕在化し、社会的に共有されたことから、2013年に「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」(旧指針)が策定されました。

この旧指針策定の検討会には、阪神・淡路大震災、新潟中越地震での対応経験を持つ委員も参加し(筆者もそのうちの一人)、議論に議論を重ねることで、多角的な視点が盛り込まれました。そして、政府の方針がしっかりと提示されたことから、男女共同参画に関心を持つ人だけでなく、徐々に防災関係者にもその重要性が認識されるようになり、国の「避難所運営ガイドライン」(平成28年)や、自治体の防災基本計画や避難所運営マニュアルにも反映されてきました。

しかし、その後も災害が多発している上、自治体の防災部局と男女共同参画部局や男女共同参画センターの間の連携が不十分な状況ということもあり、旧指針の改訂版として「災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~」が新たに策定されました。検討会委員の豊富な知見と、自治体や市民団体のみなさまのご協力によるアリングを踏まえたもので、多数の事例と参考文献が盛り込まれ、現場で使えるチェックシート類も種類を増やすなど、実践性の高い内容となっています。レイアウトも工夫し、ページ数も抑えているため、読みやすくなっていますのでぜひお目通し下さい。

なお、策定にあたりましては、被災地を含む全国のみなさまにヒアリング・情報提供のご協力をいただきました。またパブリックコメントにも多数のご意見を賜りました。多くみなさまのお力添えに改めて感謝申し上げます。

 

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その具体的な内容ですが、全体は3部構成となっており、第1部は旧指針をそのまま引き継いだ「7つの基本方針」、第2部は具体的な取り組みを示した「段階ごとに取り組むべき事項」、第3部は被災現場でも即役立つチェックシートなどが入った「便利帳」です。

第1部では、1.平時からの男女共同参画の推進が防災・復興の基礎となる、と掲げられていますが、災害が起こってから急に状況を改善しようとしても、体制や情報の面で不十分であれば対応が難しくなります。

また、7. 要配慮者への対応においても女性のニーズに配慮する、とありますが、これは高齢者・障害者・乳幼児などの要配慮者の支援において、そのケア者のニーズに十分配慮する必要があるということを強調しています。ケア役割が女性に偏っていること自体の問題もありますが、現状では、家庭でも施設等でも担い手は女性が圧倒的に多いため、防災・応急対応・復興のあらゆるフェーズで女性のニーズを丁寧にくみ取ること、女性の意思決定の場への参画が実現しなければ、要配慮者にも十分な支援がいきわたらないということになるのです。

その他も重要な項目ですので、本文に目をお通し下さい。

 

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次に、第2部の内容を示した図をご覧ください。赤字は、新版での新たに立てられた項目で、下線部は旧指針に盛り込まれていた内容を、独立した項目として整理し直したものです。

 

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平常時の備えについては、3.地域防災計画の作成・修正において、地域防災計画における男女共同参画部局・男女共同参画センターの役割が明記されましたが、これは各種の調査により、両部門間連携の強弱によって、被災者支援に関わる整備状況に差が出ていることが明になったという背景があります。

また、災害が発生した場合に自治体間で応援職員を派遣することが増えているものの、女性の派遣が限定的であることから、5.応援・受援体制における女性職員の積極的な派遣と受け入れが加えられました。8.災害に強いまちづくりへの女性の参画9.様々な場面で災害に対応する女性の発掘10.女性団体を始めとする市民団体等との連携も、豊富な事例とともに、女性たちのリーダーシップの発揮が、いかに防災対策の質の向上に直結するかがご理解いただけるでしょう。なお、近年は水害の被害が多発していること、要配慮者をケアしている世帯の避難は一層困難が予測されることなどから、12.マイ・タイムラインの活用促進、として事前に避難のあり方を検討するツールも紹介しています。13.男女別データの収集・分析については、便利帳に男女別統計チェックシートを用意し、より具体的な取り組みにつながるようにしました。

また、災害発生後の初動段階では、15.災害対策本部において、災害対策本部の中で男女共同参画担当部局や男女共同参画センターの職員の意志が反映される体制づくりを求めています。18.女性に対する暴力の防止・安全確保も取り組みが不充分のため改めて強調されました。

避難生活では課題が多岐にわたりますが、21.要配慮者支援における女性のニーズへの対応22.在宅避難・車中泊避難対策23.災害関連死の予防については、基本方針で触れたように、要配慮者は災害後にてきせつな支援が行われないと、心身の健康面の困難から命の問題に直結する場合もあること、避難所以外で生活する人も少なくないことや、避難所以外での避難生活の困難さは家族ケア上の大変な困難を強いることになるため、独立した項目として配慮を求めたものです。

25.保健衛生・栄養管理では、これまで見落とされがちだった栄養支援についても言及し、やはり後回しにされがちな妊産婦・母子支援への目配りも求めました。また、乳幼児栄養支援のための国際基準の内容を反映し、便利帳に掲載した授乳アセスメントシートを活用した授乳支援を促しています。具体的には、避難所では、早い段階で女性専用、家族専用、母子専用、介護・介助スペースへ移動させて、栄養の確保と健康維持のための配慮を行う必要があること、医療、保健、福祉等の専門家と連携し、個々の状況に応じた対応を行う必要があること、乳児に対しては、母乳・ミルク・混合のいずれでも、平常時と同じ形での授乳が継続できるよう支援が求められること、粉ミルクや液体ミルクを使用する際でも、平常時の状況や本人の希望について聞き取り(アセスメント)を行い、衛生的な環境で提供することができるよう、必要な機材や情報をセットで提供する必要があるとしています。たとえば、粉ミルクだけあっても、お湯や燃料がなければ困りますし、液体ミルクの場合でも赤ちゃんが飲めるように清潔な容器が必要です(災害時は哺乳瓶の洗浄が難しいことも多いので、紙コップでの授乳も選択肢として考えらえます)。また、授乳に悩んだ時の相談先や、ミルクの保管方法、授乳の際の注意点などの情報も併せて提供する必要があります。便利帳にはアセスメントシートだけでなくそうしたお役立ち情報も掲載されています。

27.子供や若年女性への支援も新たな項目として入りました。災害が起きると、保護者や大人たちは災害対応に追われ、子供や若年層に注意を向けるのが難しくなる傾向にありますが。子供たちは、災害の怖い記憶や、慣れない避難生活、のびのびと遊べないこと、受験勉強が思うようにできないことなど、多様なストレスを抱えている場合もあります。また、避難所や仮設住宅等において、性暴力に巻き込まれるリスクもあります。若年女性の場合、家族に代わって家事や介護を引き受けざるを得ないケースも少なくありません。東日本大震災の被災地向けの若年女性相談の取組では、例えば、進学や就学等もあきらめなくならなくなり、進学・就職でき生き生きしている友人と自分を比較して「取り残され感」を感じ、行き場のない不安を抱えるようになるという悩みが明らかになっています。また、子どもの多様性への配慮も必要です。災害時等の子供の保護に関する国際基準によると、子供の安全を守るために、子供の年齢、性別、障害の有無・種類、リスクの特性について考慮すること、それらに関するデータを収集し対策に生かすこと、支援者についても男女のバランスを取ることが求められています。

復旧・復興期については、まだまだ全般に男女共同参画の視点が不充分な状況ですが、今回は新たに、35.生活再建のための心のケアとして、男女共同参画センターが行う相談業務の活用を促す内容が盛り込まれました。34.生活再建のための生業や就労の回復も、心の回復には重要となりますので、自治体の復興本部や関連部局との情報連携により、被災者一人ひとりに寄り添った支援が可能となることが期待されます。

以上、雑駁とはなりましたが、新旧指針の比較という観点から、新指針としてのガイドラインの特徴についてご説明しました。ぜひこの記事を参考に、本文をお読みいただければ幸いです。

 

(文責:減災と男女共同参画 研修推進センター 共同代表 浅野幸子)

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