福岡市の被災地支援は「自律」を徹底していた  市長が急いで公開、「赤裸々レポート」の全貌

福岡市の被災地支援は「自律」を徹底していた
市長が急いで公開、「赤裸々レポート」の全貌
(東洋経済 2016年05月19日)

熊本地震の発生から1カ月が経過した。いまだ1万人以上が避難生活を余儀なくされているなかで、また新たな動きも出始めている。

4月24日の記事『熊本地震、福岡市が「絞る支援」に挑んだワケ』では、被災地に最も近い政令指定都市・福岡市が震災直後から取り組んだ「自己完結型支援」について紹介した。福岡市はその後もさまざまな支援活動を継続。そして5月12日には、高島宗一郎市長自らが書いた「平成28年熊本地震 福岡市被災地支援活動レポート ~今後の災害対応につなげるために~」を公開している。

A4版11枚にわたるレポートには、今回の「自己完結型支援」の背景や実態、被災地支援のさらなる改善に向けた提言などがつづられている。東洋経済の取材に対し高島市長は、「このようなレポートは時間をかけて“正確に”“過不足なく”仕上げてしまいがち。ですが今回は、多少荒くても早い段階で出すことに価値があると考え、2日間徹夜して完成させました」と打ち明ける。

■効率的に支援物資を届けるための3ポイント

レポートの内容を少し踏み込んで見ていきたい。冒頭で高島市長は「我が国におけるより実践的、機動的な被災地支援手法の確立を目指す」「多くの行政関係者が、それぞれの立場で得た教訓を積極的に発信することにより多くの教訓が普遍化され、今後の災害対応に活かされていくことを願ってやまない」と、狙いを語っている。

次に、福岡市が行った「自己完結型支援」の中身について触れている。被災自治体に負担をかけず、効率的に支援物資を届けるためのポイントとして、「ニーズの的確な把握」「仕分けの手間を省く仕組み」「避難所に効率的に届ける仕組み」の3つが挙げられている。

1、2つめについては、前回の記事をご参照いただきたいのだが、3つめの「避難所に効率的に届ける仕組み」としては、福岡市は地震から9日後、クラウド上に独自の支援供給システムを構築している。

地震発生当初、避難所では職員が物資に関する電話対応に追われ、それでも物資がうまく届かない状況が散見された。そこで、福岡市からは同システムについてのレクチャーを受けた職員を被災地に派遣、スマホで物資要請を入力、誰がいつ届けるかまで確認できるようにした。LINEグループを作って避難所同士の連携も図り、必要な物資を届けたと報告している。

「ICTを活用することで、物資に関するマンパワーを大幅に削減することができ、被災者に対する細やかな支援や相談業務など、本当にマンパワーが必要なところに貴重な人材を振り向けることができるようになる」。高島市長はそう指摘している。

レポートの中にはボランティア関連の項目も設けられている。被災地のボランティアセンターは車以外ではアクセスしづらい場所にあるうえ、人材の割り振りに時間がかかるといった運営面の課題があった。その結果、必要な地域でのボランティア不足も発生していると、同レポートでは指摘されている。

■今後は「風評被害の解決」などが課題に

福岡市はここでも「自己完結型支援」にチャレンジしている。事前に現地ニーズとのマッチングを行い、福岡市から熊本の被災地に直行する「ボランティアバス」を運行。現地に向かう車内でチーム分けや業務のレクチャーを行うことで、現地スタッフの手間を省き、効率的に活動できるというものだ。5月15日の第1陣募集枠40人は早々に埋まり、今後もバスを運行する予定だ。

このほかにもレポートでは、被災地で問題視されていた「ゴミ処理」についてや、「災害支援・復旧に関わる指揮体制の再構築」「平時から支援・受援を想定した訓練」「風評被害の解決に向けた積極的な取り組み」など、これから重要になるであろう項目についても触れている。

最後には、今回の経験を踏まえ、高島市長自身が感じた課題などが総括されている。福岡市は1カ月で延べ3000人を超える職員を被災地に派遣しており、今後は「退職した職員の活用についても検討していきたい」(高島市長)。そのうえで「有事にこそ信頼される行政を全国的に確立するために、そして、今回の震災の教訓を次代の震災対応に活かしていくために、多少でも役に立つところがあれば」と結んだ。

今回のレポートは、今後どのように活用されていくのか。地震発生からレポート作成前後のエピソードも含め、高島市長本人に聞くことができた

(以下、高島市長インタビュー)。

――この1カ月、高島市長は決断と行動の連続だったと思います。

最初の数日は泊りがけでした。ほとんどのスケジュールをキャンセルして地震対応にあたり、やれることは全部やったと思っています。

――共に支援にあたった職員や市民へのお気持ちは。

福岡市の職員は本当に優秀だと思いました。これまでの経験や努力が生かされ、一つひとつの支援が実現していく様子をみて、改めていい戦力を持っていた、うちのチームは強いと実感し、職員たちに惚れ直しました。

また、市民の皆さんの姿にはとても感動しました。特に急な支援物資の呼びかけにも即座に反応し口コミで拡散してくれたこと、地震直後にもかかわらず統一的に自主的に動いてくださったことに胸が熱くなりました。

――レポート公開後に反響はありましたか?

読んでくださった方々から「支援は行政だけがやるものではなく、行政と市民で一緒にやるという点についてその通りだと思った」など、大きな反響をいただいています。

また現場の職員には、支援業務に携わりながらも、一部のパーツしかわかっていない者もいました。今回のレポートで改めて全体像がわかったという声を聞き、その点もよかったと思っています。

■現場では紙や電話が中心で、あまりにアナログ

――安倍総理にも直接説明されたとか。

レポートを発表した5月12日、官邸で安倍総理に直接説明する機会を得ました。SNSの活用や、平時こそ支援・受援の準備をする必要があるという話をとても熱心に聞いていただきました。

翌日、丸川環境大臣を訪ねた際には、被災地のゴミ問題を担当する課長も同席され、「福岡市が突破口を開き課題の可視化ができた」と言ってもらい、10分の訪問予定が40分になるほど具体的な話をできました。

万が一のときの体制づくりを進めるために、このレポートを活用していただければと思っています。

――今回の経験知はレポートに凝縮されていますが、特に感じたことは。

2つあります。一つは、災害対応分野でもっとテクノロジーを使えるのではということ。現場では紙や電話が使われており、あまりにアナログで驚きました。今回、ソーシャルメディアで指定避難所以外の避難所の情報をスムーズに捕捉したり、高速道路の状況をドローンで撮影したりできました。災害と付き合っていくうえで、テクノロジーは力になるし、世界に求められている技術だと思います。スタートアップに力を入れている福岡は、この防災や災害対応の分野でも貢献できると確信しました。

もう一つは、市民と一体になった体制づくりの必要性です。平時に構築し、避難訓練・支援訓練・受援訓練を一緒にやっていくことが大事。レポートに書いたように、今回得た知見を市民の皆さんにも広めていきます。

http://toyokeizai.net/articles/-/118565

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