<震災6年 まち再生>計画と現状ずれ拡大

<震災6年 まち再生>計画と現状ずれ拡大
(河北新報 2017年03月04日)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201703/20170304_13041.html

 東日本大震災の津波被害を受けた岩手、宮城、福島の被災3県の沿岸部は、まち再生の取り組みが正念場を迎えている。中心市街地を造り直す大規模な土地区画整理事業は道半ば。現地再建への戸惑い、廃業の危機、地域格差など課題は山積する。震災から6年を迎える被災地の今を追う。
◎正念場迎える被災地(2)宮城県気仙沼市
 港町の風情があふれ、「気仙沼の顔」と呼ばれる繁華街があった気仙沼市内湾地区。東日本大震災の津波で被災した創業約130年の銭湯「亀の湯」は毎夜、汗を流す復興工事の作業員でにぎわう。
 銭湯閉店へ
 震災翌年の2012年7月に設備を直して本格再開した。水揚げを終えた漁船員らを癒やしてきたが、今年4月末でのれんを下ろす。経営する斉藤克之さん(75)は「かさ上げと道路拡幅で立ち退かなければならない」とため息をつく。
 市は163億円をかけ、内湾の11.3ヘクタールを一定の津波から守るため海抜1.3メートル以上にかさ上げし、土地区画整理事業を行う。一方、津波に耐えていち早く復活した亀の湯など修復した約70棟は解体を迫られた。
 補償金もあり、換地された土地で再建することも可能だ。ただ内湾で土地の引き渡しが全て終わるのは18年度。2度目の再建は、それまで待たなければならない。
 斉藤さんは「この年齢で大きな借金はできない。港町に銭湯は欠かせないと急いで復旧させたのに。このままやりたかったよ」と表情を曇らせた。
 空白生じる
 地区内の仮設商店街も4月末までに退去の時を迎える。「南町紫市場」と「復興屋台村 気仙沼横丁」を対象に市が2月に実施した調査では、31店舗が移転し営業を継続する意向だが、18店舗は行き先が決まらず、廃業は6店舗に上る。
 「かさ上げと区画整理はまちが生まれ変わる好機」。当初は、そんな思いでまとまった事業者だが、まちの基盤が整わず、移転先の賃貸物件は不足する。
 まちづくり会社「気仙沼地域開発」は、内湾地区に観光の核となる商業施設を18年4月以降に開業する計画を進める。「仮設商店街の閉鎖から商業施設ができるまで1年以上の空白が生じ、うまくバトンタッチできない」。社長の菅原昭彦さん(54)=酒造会社経営=は率直に明かす。
 被災事業者の置かれた現実と復興事業の間に生じるずれ。膨大な時間を要する復興事業によって、まちが衰退すれば本末転倒だ。
 時間をかけたからこそ得たものもある。菅原さんが会長を務める住民組織「まちづくり協議会」での議論は、防潮堤の高さを下げることにつながった。人を呼び戻そうと、地権者が提案した災害公営住宅と共同店舗の複合ビルが内湾の3カ所に完成する。
 「にぎわいづくりの方向性は間違っていない」と菅原さん。ただ、他の場所で再建する被災事業者が増え、新しいまちに店を出す事業者が減ったのは確かだ。「内湾地区は港町の中心エリア。土地がぽっかり空いた状況にはできない」と使命感をにじませる。
 現状に即した支援とは何か。国や自治体が再考するのは今しかない。(気仙沼総局・高橋鉄男)

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