新しい避難所ガイドラインができました(内閣府防災担当)

避難所は、災害で家を失ったり一時的に住むことができなくなった被災者を収容・保護し、避難生活を支えるためのものですが、現実には衛生、栄養、プライバシー、育児、介護などの生活にかかわる諸課題が十分手当されないことにより、複合的な環境悪化が被災者を追いつめる傾向にあります。
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熊本の被災地のとある避難所の様子

こうしたさまざまな問題を踏まえて平成 25 年6月、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」も策定されました。

さらに平成28年4月に新たに「避難所運営ガイドライン」が発表されましたが、これは「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」とセットで作成されています。全て内閣府防災担当「避難所の生活環境対策」のページよりダウンロード可能なので詳しくはこちらをご覧ください。

この「避難所運営ガイドライン」のポイントを下記に示しましたが、全体を通しての特徴もいくつかあります。
今回のガイドラインは、避難所の質を着実に確保できるようにするため、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)という形で、必要な対策を実現させていくための手順が細かく示されている点や、縦割り行政を超えて、横断的に連携しながら避難所の開設・運営を支えていくための体制も示されている点(p7)です。国際的な人道支援の基準についても紹介されており、個別の対策にもその内容が反映されています。「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」には、国際的な諸基準をもとに、適切なトイレ配置のための計算シートも作成されました。

ちなみに当センター共同代表の浅野も、このガイドラインの作成に委員として関わらせていただきましたが、女性の避難所運営への参画・リーダーシップの促進がかなりしっかり書き込まれたことと、(災害対策基本法でいうところの要配慮者とは別に)女性と子どもも配慮対象としても示されました。すばらしい委員のみなさま方のご理解のもとで、この両方が同時に実現したことに意義を感じています。

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熊本地震のとある避難所に設置された子どもの遊び場スペース

なお、災害時にはイレギュラーなことがさまざまに発生します。
例えば、熊本地震では余震が続く中、避難施設が足りずに車中避難を余儀なくされる人たちがたくさん出ました。民間支援でテント村が作られたり、トレーラーハウスを活用した障害者や妊婦用の避難施設が設置されたところもありますが、今後もさまざまな避難形態が出現することを前提に、柔軟な支援体制を取ることができるようにする必要があります。

いずれにしても、実際の災害時でも機能する避難所目指すならば、マニュアルを作成するだけでなく、運営に携わるだろう関係者に内容が事前にマニュアルの内容が認識され、一定の学習・訓練が行われていることが重要です。行政内の横断連携による避難所の支援体制づくり、行政職員および施設関係者への研修、地域住民の参加促進と学習・訓練の機会づくり、専門職やボランティア等との連携などが求められています。

 

「避難所運営ガイドライン」抜粋

Ⅰ 運営体制の確立(平時)

1.避難所運営体制の確立
行政による避難所支援の話し合いには、必要に応じてNPO・ボランティア等の参画を呼び掛ける、各避難所に避難者の代表・施設管理者・避難所派遣職員等からなる避難所運営委員会(仮称)を設置して運営体制を確立する、その際、女性がリーダーシップを発揮しやすい体制を作る、必要に応じてNPO・ボランティア等の代表の参画の呼びかけをするなど。

2.避難所の指定
福祉避難所/スペース(一般の避難所の中に設ける要配慮者用の空間)を確保する、母子(妊産婦・乳幼児専用)避難所/スペースを確保する、避難所には障害者・外国人向けの案内掲示等を確保するなど。

3.初動の具体的な事前想定
避難所マニュアルを作成する際に、地域住民代表・要配慮者等の多様な意見を取り入れ作成する、避難所の運営において女性の能力や意見を生かせる場を確保する、トイレの設置・運用訓練・使用ルール決めをする、手洗い用水を確保するなど。

4.受援体制の確立
外部からの支援を受け入れやすくするために、平時から行政職員、ボランティア・NPO、保健・福祉関係者、医療従事者、警察などと住民が連携しあう形で備える。その際、女性の視点を取り入れることでより具体的な意見の反映が期待できる。

5.帰宅困難者・在宅避難者
在宅避難者の安否確認方法・対応方針を検討する、在宅避難者のニーズ把握・生活支援方法を具体的に確立するなど。

Ⅱ避難所の運営(発災後)

9.トイレの確保・管理
「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を参考に計画を作成する、被災者の数に対して適切なトイレの数を確保する(国際基準も参考にした計算シート付き)、トイレの設置に際しては女性や要配慮者に意見を求める、高齢者・障害者用トイレの同線の安全性を確保する、防犯対策としてトイレの中と外に照明を確保し、鍵・防犯ブザーを設置する、手すりの設置・段差の解消をする、子ども用のトイレ(便座)を確保する、感染症患者が出た時の専用トイレを確保する、装具交換やおむつ交換のたえの折り畳み台を設置する、人工肛門・膀胱保有者のための装具交換設備とスペースの設置を検討する、など。

11.避難者の健康管理
「避難生活を過ごす方々の健康管理に関するガイドライン」(厚生労働省)を踏まえ、健康管理体制の確立、感染症対策、その他の病気(食中毒・生活不活発病・持病の悪化・エコノミークラス症候群・熱中症など)の対策、暑さ・寒さ対策を行うなど。

12.寝床の改善
健康維持にとって重要なため、寝床を整備できるよう資材を確保すること(寝具・間仕切り等の調達)、段ボールベット等簡易ベッドの設置を検討することなど。

Ⅲニーズへの対応

15.配慮が必要な方への対応
高齢者・障害者・妊産婦・乳幼児・難病・外国人等の要配慮者の支援のため、避難環境についての当事者からの聞き取り、段差の解消等の環境整備、避難者同士の見守り体制の確保、福祉避難所への移動の方法、在宅避難している要配慮者の支援ニーズの把握など。

16.女性・子どもへの配慮
女性・妊産婦に必要な物資・環境を確保する、女性用更衣室・授乳室の設置、母子避難スペース・キッズスペースの設置を検討する、性別配慮について意見が反映できる環境を確保する、家庭的ニーズの絶曲的掘り起しをする、安心して話ができる女性だけの場を検討するなど。

17.防犯対策
避難者同士の見守り体制の確保、仮設トイレ等の防犯対策、地域の防犯見守り体制の確保など。
18.ペットへの対応
ペット同伴避難のルールおよびペット滞在ルールを確認する、ペット滞在場所の設置を検討するなど。

釜石市「避難所運営担当職員用マニュアル改定のための提言ワークショップ」続報

3月のメールマガジンでご紹介した、釜石市の「避難所運営担当職員用マニュアル改定のための提言ワークショップ」の続報です。

釜石市とカリタス釜石の共催により、防災士や民生児童委員、復興住宅自治会、女性消防団、一般の住民男女からなる「男女(みんな)で地域防災について考える会」のみなさんが、避難所運営のマニュアル改定のための提言をとりまとめられ、当センターがそのお手伝いをさせていただいたものです。これに対する、市長さんと担当部局からの回答をご紹介したいと思います。

回答の基本的考え方は「住民男女が男女共同参画の視点からマニュアルを見直した貴重な提言で、『男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針』(内閣府男女共同参画局、平成25年5月)にも示されている内容であることから、多様性配慮の視点に立って、提言内容の実現に努力する」とのことです。住民による提言であることが尊重され、そして後ろ盾となる政府の方針の存在が大きな意味を持ったのではないでしょうか。

具体的には、
①東日本大震災で実際に避難所運営に従事した女性職員を中心に今後の災害対応のあり方に関する検討会議を開催し、具体的な意見をマニュアル改定に反映する、
②地域が主体となった避難所運営等地域防災力の向上のために、町内会や防災士等を中心に幅広く協議や訓練等の取組みを実施する、
③住民一人ひとりの防災意識と行動力の向上に努めると共に各関係機関、企業等との連携を深め、全市が一体となった災害対応体制が構築できるように取り組むことです(復興釜石新聞4月30日)。

避難所運営や備蓄物資、女性と子どもの安全対策などに関する個別の提言内容に対しても、細かな回答が作成されました。「男女(みんな)で地域防災について考える会」のみなさんは、提言が受け入れられた部分が多いと、手ごたえを感じておられます。男女共同参画・多様性配慮の視点を組み込んだ防災体制への道のりは長いですが、すばらしい第一歩ですね。

今後は、示された基本的考え方がしっかり今後の活動に反映されるよう、また個別の提言に関する回答が具体的に実践されるよう、住民の皆さんと自治体行政の皆さんの力あわせを、当センターも応援し続けたいと思います。

(文責:池田恵子)

釜石市「避難所運営担当職員用マニュアル改定のための提言ワークショップ」

釜石市で、地域の防災体制に男女共同参画の視点を導入するきっかけとして、誰もが安心して過ごせる避難所について考えるワークショップが行われました。現在使われている避難所運営担当職員用マニュアルを検討し、住民が活用する避難所運営マニュアルを策定するための提言を行うことを目的に、3月5日に行われました。釜石市とカリタス釜石の共催により、防災士や民生児童委員、復興住宅自治会、女性消防団、一般の住民男女のみなさんが参加しました。

ワークショップでは、まず、東日本大震災当時の避難生活の状況を振り返り、避難所運営に必要な男女共同参画・多様性の視点からの組織体制、作業、スペース活用などについて話し合いました。プライバシーの欠如や、避難所での子育ての困難、女性が要望を声に出せない辛さなどの課題に対して、市民の立場から、可能な対策の提案がなされました。当センターは、ワークショップの企画全般と、提言とりまとめのお手伝いをさせていただき、当日のワークショップのファシリテーションは、釜石市の職員の皆さんやカリタス釜石の皆さんが実施されました。

ワークショップに参加した人々が、「男女(みんな)の視点で地域防災を考える会」として、「釜石市避難所運営担当職員避難所運営マニュアル改定に関する提言」をとりまとめ、3月10日に危機管理担当部署の責任者や市長に対して提言を伝えました。
 釜石市に限らず、多くの中小規模の被災自治体では、女性センターもなく、男女共同参画担当部署はそれ以外の業務との兼務であり、人員配置も非常に少ないです。このような状況の中、この提言ワークショップを実施された、釜石市総務企画部総合政策課統計係兼男女共同参画室とカリタス釜石のみなさん、そして「男女(みんな)の視点で地域防災を考える会」のみなさんには、こころから敬意を表したいと思います。

5回目の3月11日を経て…

東日本大震災から丸5年。被災者のみなさまには、それぞれに言葉に尽くせない大変な日々を過ごされてきたことでしょう。いまだ約20万人の方々が避難生活を余儀なくされていますが、とりわけ、住む場所や、経済的な立て直しの面で目途がつかない方々の心細さを思うと、もどかしくてなりません。

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津波被災地の復興はまだ道半ば

今月は、復興に関するさまざまな報道・情報がメディアやネットをにぎわせました。報道や統計に表れることがなくとも、ご家族や親しい方を亡くされた方、避難生活で心身にダメージを受けるような経験をされた方など、心に大きな痛みを抱えながらも、一歩一歩前に進もうと日々を懸命に生きておられる方がたくさんおられます。原発事故や経済問題などで故郷を遠く離れ、孤立した状態で生活再建の問題に直面している被災者の方々、特に母子での避難者が今後どのように扱われていくのかについては、注意深く見つめていく必要があるでしょう。

災害は、日常の社会の抱える矛盾や課題を拡大させる形で被害を拡大させます。災害の被害を減らし、復興を早めるためには、災害後の対応に関する個別のノウハウだけでなく、平常時の組織や制度、経済、文化のあり方自体を変えていく必要があります。性別や年齢、障害の有無などに関係なく、個人が尊重され生き生きと活躍できるような社会、排除や差別のない社会へと変えていくことが重要です。

それは、東日本大震災の被災者の方々が直面されている問題であると同時に、格差が広がり、大規模災害の頻発が予想される時代に生きる、私たちみんなが突き付けられている問題でもあります。

減災と男女共同参画 研修推進センターは小さな団体で、研修を主な活動としていることから、被災者のみなさまへの直接支援には取り組めてはおりませんが、微力ながらこれからも、女性(男性)や障害者・子ども・外国人の方などの多様な視点に立った防災・社会のあり方を問うてまいります。そして間接的なご支援や、被災者や被災地の現状についての情報発信、調査・研究に努めてまいりたいと存じます。

被災者のみなさまのこれまでの5年のあゆみが、次の5年で報われるものとなりますよう、心から祈りつつ、今後も、被災地内外の自治体、地域組織、市民団体、企業、個人のみなさまと連携させていただきながら、真摯に活動に取り組んでまいりたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

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3月11−12日、東京の日比谷公園で行われた震災関連イベントで
NPO法人ウィメンズアイさんの出店の様子

 

 

●復興庁ウェブサイト「復興の現状と取組」より
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/20131029113414.html

朝霞市(埼玉県)が地域防災計画見直しにあたって「女性視点の防災対策検討部会」を設置。報告書がまとまりました

埼玉県の朝霞市では、平成26年度から平成27年度までの地域防災計画の改訂にあたって、「女性視点の防災対策検討部会」と、「避難行動要支援者対策検討部会」の2つの部会を設置。市内の地域リーダー、福祉関係者、女性団体、PTA、消防団など、市内で活躍する多様な立場の男女と、複数の関係部局が委員として参加する形で、数か月かけて熱心に議論が交わされました。当センター共同代表の浅野が両方の座長を務めさせていただきましたこともあり、報告書がまとまりましたのでご紹介させていただきます。

 http://www.city.asaka.lg.jp/soshiki/6/teigensyo.html 
(朝霞市のウェブサイト)

国の『防災基本計画』における記述に加えて、内閣府男女共同参画局による『男女共同参画の視点からの防災・復興の取組み指針』が策定されたことから、各自治体の地域防災計画への男女共同参画の視点の反映作業が少なからず進められています。しかし、その反映作業を、住民・市民との協働作業で行っている自治体はまだまだ少数派です。また、計画に反映させた後の、行政職員および住民・市民への知識の普及と、行政および地域組織における具体的な体制づくりが決定的に重要となりますが、その段階まで腰を据えてしっかりと取り組もうという自治体はさらに少ないのが現実です。

ちなみに朝霞市ではこの2つの報告書を市長へ提出した直後に、策定に携わった住民・市民委員およびその他の重要な地域防災上のアクター(建設事業者なども含む)の方に参加していただく形で「地域防災意見交換会」を開催! 報告書の概要を共有した上で、「避難行動」および「避難所運営」の場面を想定し、実際の災害時および事前の備えとして何ができるのか、ワークショップを実施しました。

そのほかにも、地域防災計画に男女共同参画の視点を書き込んだだけに終わらせず、災害の場面でも実践的に取り組まれるよう、地域防災リーダーや職員向けの研修、避難所開設運営訓練への取り入れなど、頑張っている自治体が複数出てきていますので、そうした好事例を相互に広げていくことができればと思います。
 みなさまの地域でも面白い取り組みがありましたら、ぜひ情報をお寄せ下さい!

(文責:浅野幸子)

福島と宮城で女性支援を継続している方々にお話をうかがいました(福島県助産師会・ウィメンズアイ)

11月の釜石に引き続き、12月16・17日と、福島と宮城で支援活動を継続している、福島県助産師会会長の石田登喜子さん、ウィメンズアイ代表の石本めぐみさんにお話を伺ってきました。今回はそのうち、福島県助産師会による、震災後の妊産婦支援事業についてご紹介します。

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一般社団法人福島県助産師会では東日本大震災後の大変厳しい環境の中、妊婦・母子の訪問、助産所での母乳育児支援、子育てサロンの開催、助産所での産後入所ケアと産後デイケア、電話相談などの支援を継続して行ってきました。事業実績は表の通りですが、お話をうかがうと、こうした数値では表現しきれないだけのたいへん大きな役割を果たされてきたことが理解できます。

政策的には一応、「妊婦の検診、出産後の保健師の訪問、乳幼児の健診」がありますが、回数は限られており、しかもそこで問われるのは赤ちゃんの健康状態だけです。つまり、赤ちゃんがとりあえず健康状態をクリアしている限り、お母さんがどんなに追い詰められていても問題とはなりません。そうした状況での福島県助産師会の支援活動ですが、特に、1日3,000円で受けられる「産後の入所ケア事業」をめぐるお話が印象的でした。

お母さんたちは出産後、病院にいる間だけは周囲の支援があってなんとかなりますが、家に戻った途端に大変な状況に追い込まれます。泣く赤ちゃん、寝不足になりながらの授乳、おむつ替えなど、一つ一つが初めてで慣れないだけでなく、「本当に赤ちゃんは育っているのか?」「自分の育児方法は間違っていないのか?」などと、日々不安の連続です。

その上、核家族が増えたこと、妊産婦の親世代たちも生活のため毎日働いているケースも多いことなどから、今は、一人でたいへんな育児に向き合っていかなくてはならないお母さんが増えていると石田さんは言います。そうしたお母さんたちが、助産所でゆっくりと支援を受けながら、育児に関するアドバイスももらえるのが産後の入所ケアです。どれだけ新米ママさんたちの助けになることでしょう。

なお、こうした取り組みの成果により、県内の病院に務める助産師や市町村で母子保健を担当する保健師との連携もできているそうです。

恥ずかしいことに私はこの日、福島特有の困難というお話がメインになることを予想していただけに、そもそも日本社会における妊娠・出産をめぐる環境がとても悪化している状態なのであり、それが福島では震災後の厳しい環境で一気に顕在化したのだと捉えているとの石田さんの言葉に、少なからず衝撃を受けました。

もちろんわたしたちの社会は、原発事故に関連して妊産婦が抱えるさまざまな悩みや不安にきちんと正面から向き合っていく必要がありますし、現実に福島の女性たちは、他の地域の妊産婦さんよりもさらに多くの不安を抱えながら妊娠・出産・育児に向き合っていることでしょう。しかし同時に、家族形態の変化に加えて、非正規雇用の増加、改善されない長時間労働、格差・貧困問題、老後不安といった問題が、さらに育児・出産を巡る環境を悪化させていることにも、目を向ける必要があると改めて思いました。

日本で女性たちが安心して産み育てることができる環境を実現させていく必要性を考えた時、福島県助産師会による包括的な妊産婦支援事業は、日本の未来を切り開く先進事例と言えるのでしょう。ちなみに福島県助産師会では、当初は民間による助成金を基にしてこれらの支援事業に取り組んできましたが、現在は福島県の補助金によって事業を展開できる状況になっているとのことです。今後とも、こうした行政と専門職能団体が協働するかたちでの支援事業がしっかりと継続され、全国に広まって欲しいと思いました。

(文責:浅野幸子)

 

 

表 福島県助産師会母子支援事業の実施件数 推移
(出典:「福島に続け――低料金でも手が届く助産師のケア」『助産雑誌』vol.69 no12 December)

事業内容

2011年3月~

2012年度

2013年度

2014年度

妊婦・母子訪問

1041

1001

1053

1328

助産所での母乳育児支援
(乳房ケア件数)

151

339

456

622

子育てサロン
(実施場所,利用組数,のべ回数)

県内6カ所,
559組,52回

県内16カ所,
1844組,151回

県内19カ所,
2473組,202回

県内23カ所,
2821組,233回

助産所での産後入所ケア
(実施場所,利用組数,のべ日数)

県内4カ所,
29組,のべ419日間

県内3カ所,
38組,のべ305日間

県内3カ所,
67組,のべ472日間

県内3カ所,
70組,のべ511日間

助産所での産後デイケア
(実施場所,利用組数,のべ日数)

県内5カ所,
53組,のべ66日間

電話相談

1044

877

1269

母乳の放射性物質濃度検査受付
(受付件数)※

559

59

19

福島県助産師会『東日本大震災支援活動報告集~あれから3年』(2014年3月)より作成
 
※母乳の放射性物資濃度測定検査の結果はすべて「未検出」

 

 

「女性にとって今こそ知っておくべき防災術!」 立川災害ボランティアネットの防災講演会(東京)

この秋、講師として伺った講座・研修で、子育て世代の女性たちが多く参加して下さった催しがありましたので、今回と次回にわたってご紹介します。

10月9日(金)の午前、東京都西部にある立川市女性総合センター アイムを会場に、防災講演会「女性にとって今こそ知っておくべき防災術!~あなた自身と家族、本当に守れますか?子ども・高齢者・女性が直面する災害時の困難とその対策~」が開催され、当センターの浅野が講師を務めさせていただきました。

主催は立川市男女平等参画課、協力の立川市社会福祉協議会ですが、企画・運営の立川市災害ボランティアネットを中心に、市男女平等課および市社協の職員さんたちも、開催準備や当日運営への協力はもちろん、講演会自体も受講してくれました。

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講演の様子

受講者は約50人。主催・協力・運営側はこれまでも連携しながら、市の町会連合会にもお声掛けして防災講演会を開催するなど、男女共同参画の視点による防災の重要性についての普及啓発に継続的に取り組んできているため、保育付きで10人前後の子育て世代のママさんたちも参加してくれただけでなく、男性の参加も多く、地域組織で防災を担当している方もいました。

内容については、北関東の豪雨水害の記憶も新しいことと、何より「女性にとって今こそ知っておくべき防災術」というテーマですので、最初30分程度の時間を割いて防災の基本について学習していただけるよう、警報の種類と、室内案安全対策(点検チェック資料と転倒防止器具情報)、住んでいる地域の危険箇所チェック資料、備蓄に関する資料を用意して、まずは自助にしっかり取り組んでいただくようお話をしました。ただし、自助だけでは助からないのが大規模災害なので、自助・共助・公助の考え方と避難所でどんな問題が起きていたのかについて簡単に触れながら、地域での関係づくりの重要性をお話しました。

後半は、性別・立場別の困難の違い(特に女性ならではの、また育児・介護など家族のケアの立場からの大変さ)について説明し、最後に避難所に地域のひとたちと一緒に避難したと想定しながら、食物アレルギーの人、介護が必要な高齢者・障害者、子どもの困難と配慮・支援をテーマにグループで話しあってもらいましたが、熱い議論となりました。受講者には、乳児を抱いた状態の若いご夫婦もいらっしゃるなど(0歳児は託児できないため一緒に参加いただきました)、さまざまな世代・立場の男女の市民がバランスよく参加して一緒に学ぶという機会もあまりありませんので、そうした意味でも学習効果は大きかったのではないでしょうか。

なお、立川災害ボランティアネットは、立川市社会福祉協議会のよびかけで2009年から準備会をスタートし、東日本大震災を契機に2011年4月に市民有志によって設立されました。自治会、マンション管理組合、企業、市民団体、小・中・高校などへの出前講座に取り組むとともに、地域で活動する人材育成を目指し、災害ボランティアリーダー養成講座に取り組んでいます。

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立川災害ボランティアネットのみなさんと一緒にパチリ

釜石を訪ねました

11月上旬、釜石を訪ねる機会がありました。被災地の現状についてお話を聞き、復興工事の現場も見て回りました。一昨年に町の中心にイオンタウン釜石がオープンし、建設現場ではひとやもの、お金が集中していますが、水産加工業や飲食業などの地元の中小・零細企業は引き続き人手不足の状況のようです。

また、復興公営住宅の建設が進む中、復興公営住宅での自治組織づくりなど新しいコミュニティづくりをどう支えるのかや、復興公営住宅と近隣の住民との交流の場づくりといった課題や、入居が遅れ仮設住宅に残される人たちの焦燥感など、被災者の方たちが置かれた状況に差が出る中での問題もあるようです。

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   復興工事が進む鵜住居地区

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   カリタス釜石の事務所

市の中心部の協会敷地内に拠点を置き、地域に根差して被災者支援を続ける特定非営利活動法人カリタス釜石では、複数の仮設住宅でサロン活動を継続して来ましたが、今後、復興公営住宅でのコミュニティ形成支援にも力を入れようとしているとのことでした。

カリタス釜石は、サロン活動や見守り活動に加えて、敷地内にオープンスペース「ふぃりあ」を設け、近隣住民へのサービスや憩いの場、さらには孤立防止の為に開放しています。男性の孤立といった課題も受けて、男性向け料理教室の開催なども行ったそうです。

また昨年、個人や団体が自由に出入りし、休憩や打合せ、コワーキングスペースとしても利用することができるみんなのスペース「ぷらざ☆かだって」をオープン。特定非営利活動法人アットマークリアス NPO サポートセンターとの共同運営で、パソコンと Wi-Fi も完備してインターネットを楽しめます。さらに、さまざまなイベント・セミナー等も開催するなど、釜石の地域復興と、暮しをめぐるさまざまな課題に目配りをしながら、細やかな取り組みをつづけています。

なおカリタス釜石さんでは、漁業者の復興を応援するため、三陸わかめの販売をしています。売り上げは地域の復興事業にも使われるそうです。

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   カリタス釜石のみんなのスペース「ぷらざ☆かだって」でスタッフのみなさんと

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   かさ上げ工事の様子

市の中心部から車で30分ほど離れた、海沿いの地域に古くから暮らす女性リーダーにもお話を伺いましたが、高齢化が進む中でもさまざまなアイディアを出しながら、地域の交流や漁業を盛り上げようと奮闘している様子が伝わってきました。数は少ないものの、フルタイムで働いている20代の女性もできる範囲で地域活動を手伝ってくれたり、30代40代で力を発揮している女性漁業者もいるとのお話もあり、こうした女性たちがより一層活躍できる環境づくりがいかに重要かを改めて感じました。

8月6日 南相馬市で研修の講師をさせていただきました

8月6日の午後、南相馬市で防災研修会が開催され、講師として当センター共同代表の浅野が登壇させていただきました。主催は福島県男女共生センターさん、共催が南相馬市さんです。

参加者は市役所および高齢者や障害者施設の職員の方、地域の女性防災リーダーのみなさんなど約30名で、性別・多様な立場に立った困難と備え・対策について、参加者の皆さんのご経験も振り返りながらグループで議論しました。

また、時間の関係で十分に作業はできなかったものの、「もしも一般避難所である小学校の一室を使って介護が必要な高齢者と障害者を支援する福祉避難室を設置するとしたら?」という想定で、教室の空間の使い方を書き出してみるといったワークも実施させていただきました。福祉施設のプロの方も多く、A3の紙にすぐに福祉避難室のイメージを書き出し始めたみなさんの様子を拝見して、お一人おひとりの大きなパワーを感じました。いずれしっかりと時間をとってみなさんにお話をうかがう形で、経験に学ばせていただかないといけないと感じながら帰途に着きました。

帰りがけ、日暮が迫る道を福島駅に向かって走る車の中から、その経路の途中にある飯館村の様子を見ました。2年ほど前に南相馬市にうかがった際は、帰り道がすでに真っ暗になっていたため、初めて村の様子を見ることになったわけですが、雑草に覆われた荒れた農地に胸が痛みました。しかし同時に、一部では除染作業が進む農地もあり、また、隣接する川俣町内には、飯館村の複数の学校が入るプレハブ校舎も目に入りました。

当センターが主催の研修ではないため、研修の詳細や写真は控えますが、記事として少しさびしいので、南相馬市への往復の途中で撮った二枚の写真をご紹介します。

1枚は、前日の5日に泊まった郡山の駅前で行われていた、「うねめ祭り」というお祭りの一環で行われていた、幼稚園児たちによる太古の演奏の様子です。のぼりには「○○幼稚園」「元気太鼓」とあり、ちびっ子たちの勇壮な演奏が響き渡っていました。
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もう一枚は・・・。ガスタンク?の写真なのですが、お分かりになりますでしょうか?車中から撮ったためうまく撮れていませんが、巨大な桃などが描かれている様子に、なんだか自然と笑顔がこぼれてしまいました。

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まだまだ暑い日が続きますが、みなさまお気をつけてお過ごしください!

4月25日 仙台を会場に「女性防災リーダー」フォローアップ研修を実施しました!

4月25日(土)午後、仙台市のエルパーク仙台セミナールームを会場に、「女性防災リーダー」フォローアップ研修を実施しました。これは、イコールネット仙台(代表:宗片恵美子さん)と減災と男女共同参画 研修推進センターが共催で開催したものですが、東北で女性防災リーダーの育成に取り組んでいる関係者の交流集会を兼ねたものです。

参加者は、陸前高田市のNPO法人まぁむたかた(3名)、NPO法人参画プランニング・いわて(スタッフと講座修了生の7名)、登米市市民活動支援課(職員と講座修了生の合計8名)、NPO法人イコールネット仙台(28名)と、イコールネット仙台の事務局、当センターから共同代表2名の約50人でした。

th_活動報告の様子

はじめに主催者あいさつのあと、すぐに「第3回国連防災世界会議」の振り返り、として、当センター共同代表の池田が解説。また同・浅野から、防災に男女共同参画の視点を定着させようと取り組まれている各地の事例を紹介しました。

次に、参加者からそれぞれ15分程度で、地元での取り組み状況について発表がありました。はじめにNPO法人まぁむたかたからは、子育てする母親の目線での地元での防災学習の取り組みなどについて、次に、参画プランニング・いわてからは県内の女性を対象とした「女性防災リーダー養成講座」などの様子や自治会関係者を含む受講生とともに作成した避難所運営ガイドラインの紹介がありました。登米市からは、連続講座で学んだ中身について詳しく報告がありました。

報告の最後はイコールネット仙台です。イコールネット仙台は一昨年度・昨年度と「女性のための防災リーダー養成講座」を開催し、仙台市内の各地区で活躍できる女性リーダーを育ててきたため、その修了生たちから地元で実践している取組みについての報告がありました。

th_仙台市、登米市、陸前高田市、岩手各地の女性たちがテーブルごとに交流

後半は、参加者同士の交流です。最初から7つのテーブルに各地からの参加者が混ざるように座ってもらっていたので、最初はそのメンバーで意見交換。さらに、ワールドカフェ形式で席を交代して、違うメンバー同士で意見交換を行いました。

特に最後の交流は大いに盛り上がり、話は尽きない様子で、名残惜しい別れとなりましたが、アンケートからは「大変良かった」「他の地域の女性たちの話が聞けてよかった」「地域によってそれぞれだが、ヒントになる経験・取組み例が聞けた」「ぜひとりいれてみたい情報もあり勉強になった」「何とかしたいと思っている女性たちがこんなにいることがわかってよかった」といった意見を多数いただきました。また、国連防災世界会議の振り返りについても、「当日は参加できなかったので聞けてよかった」「第1回の横浜での会議からの流れも聞けて勉強になった」といった意見をいただきました。

まちの復興はまだまだ途上ではありますが、東北の女性たちは東日本大震災の経験を無駄しまいと、地道に取り組みを進めようとしています。みなさんの頑張りに学びなら、今後も防災における男女共同参画の視点を着実定着させていくための努力を続けていかなければならないと、心新たにした半日でした。

ご参加くださった各地のみなさま、そして事務局として全体の企画・コーディネート・運営を担ってくださったイコールネット仙台のみなさまに、改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。

※なおこの研修会の中で、当センターが作成したばかりの『男女共同参画・多様性配慮の視点で学ぶ防災ワークブック』も全員の方に提供させていただき、中身を紹介させていただきました。活用いただければ幸いです。

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